雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

2023年10月の俳句

その一

父と子の短い会話稲の花

むらさきの露草一輪芝離宮

長月のリトルトーキョーを歩いてゐる

金木犀かの世の雨に濡れゐたり

汽水線越えて釣られる鱸かな

撮りためて重きスマホや秋の雲

高声のおさなの一塊秋高し

その二

自分変えず地球を壊したホモサピエンス

夏の闇影なき子らに影あたへ

ごきぶりのゆずれぬ一線闇あはい

子の汗を抱いて冷ます残暑かな

蟻の歩にあわせて蟻になりにけり

山梨の記事に包まれ来る白桃

暑い道過るくちなわ六尺余

いなっこが鯔になりゆく戦き

鯔やがてとどになりゆく不穏かな

これはもう人を殺める暑さかな

離宮よりゆらりゆらと紋黄蝶

秋袷無言抱きてすれちがう

その三

紅色ひしゃげるはじまる紅葉

蓮の花赤の虚しさ白の虚しさ

蓮の花見る西を見る植物園

曼殊沙華街の雑踏透き通り

夏中の二酸化炭素吐き出す日

梅を干すたゆたゆと皺ゆるびゆく

ビール飲む無駄な知恵分ビール飲む

その四

金木犀あまえられてもまあいいか

大絮のごときかたまり街の雪

きっぱりと黒の上下の夏衣

饒舌の左官職人腕もよし

心地よきことしてしまったわ曼殊沙華

威嚇無き治者の住まいやつわの花

きりきりと女庭師や新松子

鯛釣りし汽水の池や芝離宮

添ふごとき巌の石組み空高し

その五

舟虫の動きゆっくりゆれる桟橋

側女つれ将軍おりる波静か

色のつく前の千両真珠色

いにしえの波音聞こゆビル群秋

お父さんと呼ばるる猫や街涼し

温暖のこの星縄文のごとくに

流れ星もともとなかりし野望

民衆も人殺めたり震災忌

人殺める事無き三月十一日

黒葡萄ふふめば甲斐の山の気

巨き峰確かに巨峰黒葡萄

もろともの便乗あれこれ野分の夜

塹壕の中に墜ち来る赤蜻蛉

補聴器のノイズの中の秋の声

 

 

 

 

 

 

 

2023年9月の俳句

その一

苦瓜の小さき花に小さき蝶

噴水や故国異なる人ばかり

良き人生とのこされし者等言ふ仏法僧

極暑という季節を変へぬ野分かな

除菌ロボットに追はれる夏の爺と婆

銀ヤンマ反射して夏の闇

その二

噴水や忙しい人暇な人

アメリカの鯖雲に入るホームラン

星流るたまわりし本数多

胃袋にかすかな胃酸稲光

雲の峰皆世に出でて家滅ぶ

道のえの黒きかたまり大暑かな

空蝉の一片栞に歎異抄

見るものの奥を見てゐる青葉梟

鳩三羽結界を越へ雲の峰

その三

とがったものほど長いつきあい夏

ひたすらに妻と歩きし異国の夏

つゆ草の咲くやこの時この所

竜淵に潜む飛び出すもの飛び出さぬもの

目耳不如意日々鮮たなり雲の峰

秋風の声やや遠く日々鮮らた

暇な人忙しい人時計草

集中脱皮脱力碧あげは

その四

かなかなで明けていく高原

特急にどっと乗り込む大暑かな

ごきぶりも縞蚊も休む大西日

散らばっているおもちゃ大暑かな

午後一時新宿を行く大暑かな

六尺のくちなは過る処暑始まる

肺がんがカメラを貌く大暑かな

その五

かはかはと烏嘴空け大暑来る

かはかはと烏並走雲の峰

行き場所がなくなるをとこ大暑かな

夕焼けの丘を見ている縄文人

近世なき甲府の館大夕焼け

六日の九日の黙祷大豆干す

こぼれ種淡く小さく靭き朝顔

気がつけば虫の音のなか朝の秋

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちはどう生きるか」宮崎駿、吉野源三郎の意味と位置

 昨日、かねて子供たちといっても40歳代だが、子供たちにすすめられた、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」を見た。ジブリのものも含めてアニメについては系統的に見ていないものであるが、感じたことを書き留めておきたいと思う。

 長い間、ものやことをつくってきた人間が高齢となったとき、自分がつくってきた作品などの内容、方法などに、それぞれ直したいもの、つけくわえたいとおもっていることをつなげて、作品として表現したいという願望、欲望をもつことがある。この映画も宮崎のそうした意向がある様に思われる。宮崎ほどの質量すぐれた作品をもつものによるそれは、絢爛豪華である。

 ストーリーとそのつなぎはアニメあるいはアニメ界の自伝として表現されるが、直接的には作者の自伝として展開される。空襲でなくなった母親がのこしててくれた吉野源三郎の本『君たちはどう生きるか』を涙を溢れさせて読む少年からはじまる。その本の内容と共通して民衆のものもふくむ非合理的非科学的なものやことに距離を置く少年である。その少年が鳥や人に媒介されてこの世とあの世のパラレルワールドを往き来する。

 ここで考えなければならないのは、少年の生活の基盤である、軍需産業で儲ける父と、非合理とした戦争をとめられなかった、本の作者である吉野源三郎との関係である。この二者を対抗的に見るのが一般的だが、現実においては相補的であった。戦争は軍需産業を必要とし、非合理非科学だけではできず、合理的科学的人間を必要とする。そして後者の部分が終戦を早める役割をした。少年もこの二者を矛盾なく共存させていた。

 戦後になると、資本家は軍需から民需に転換し、吉野たちは非戦で、合理的科学的な部分の担い手として、ともに高度成長を牽引した。日本のアニメ制作の展開も、宮崎たちの展開も、この民需と非戦による高度成長によりそい、時に推進する位置にあったといってよい。それゆえにそれを反映した宮崎の、そしてアニメの「自伝」は絢爛である。例えばパラレルワールドの舞台であり境界である、和でもなく洋でもない建物と森などの、湿気のなかでのきわめて、みずみずしい、幻想的リアルさ、にあらわれている。

 このアニメの達成と並行して、軍需でない民需産業、つまり人殺しの商品の製造と貿易をしない、非戦で合理的でヒューマンな吉野たちの達成も美しい。そして今、アニメも、吉野たちが達成したものも転機を迎えている。高度成長の時代と異なる新しい時代、新しい秩序をつくるために、普通のアニメ、武器を製造し貿易をする普通の国にもどるか、あるいは、宮崎たちの達成、吉野たちの民需、非戦、合理性の達成を十全に生かしていくか、を決めるのは「君たちはどう生きるか」にかかる、いうのがこの映画のメッセージであると私は思った。

 

 

 

2023年8月の俳句

その一

澄みきれる影水にあり八月の渓

真を避け善美に至り戦争ぞ

えごの花の上なる闇の明るさ

お父さんと呼ばれる猫や夏の街

真剣ななりゆきおにやんまの交

児の髪を揺らして過るおにやんま

その二

怒られるわけわからないジギタリス

夏の漣離婚する船長

別れても別れなくとも傘寿の夏

カンデンスキーのほかに知己なし夏の展

終点の駅の小さな蝉時雨

夕薄暑申年AB型水瓶座

改札口音楽で示す国戦争はせず

泰山木の花と目があふ歩道橋

一滴の速さ点滴梅雨明ける

今日のガガンボ明日のガガンボ

竹の皮外れる二秒無風なり

その三

療養室のレットイッツビー水中花

ほうたるに意味などはなしあいらぶゆう

茨の道茨の花はやさしい

擬死をするかめむしのイメージする死の形

動くことは死擬死は生黄金虫

夏の木の根っこ波打つアスファルト

やはらかくはりつめた脚ダイビング

大振りの小芝居モスクワの夏

 

 

2023年7月の俳句

その一

春の駒まっすぐに四肢八方に

なるようになるなんとかなる百日紅

洗濯物干す夏 空となる

豹柄の大木なりけり蒟蒻盛夏

城下町上市下市夏の堀

大墳墓地に環りたり蛙鳴く

正道の夏の真ん中に逸れること

緩い論えごい筍洋風居酒屋

その二

山葵小屋にカミュ全集第一巻

学生が卒業していなくなる

貝釦二つ外して夏句会

甲斐全山青葉若葉に溺れけり

一葉ごと光をたたえ金木犀

思慮深くやさしい少年夏来る

帰ってきたと笑み逝きし父庭若葉

木下闇そもそも初めは光なり

雉鳴くや空三角に変形す

その三

意図をせぬ夏断といふ自由

釣れぬ刻 ほどよく散らばる三尺寝

蝶として翻んいる我三尺寝

釣れぬなら無口不機嫌三尺寝

常磐の波の谷間の三尺寝

区切られしベンチに縮じみ三尺寝

日傘我まだ犯人の前防犯カメラ

今日のこと今日のことにてスクラベサクリ

 

マイナンバーカードを実現するためにはベイシックインカムに関わらせること。

 マイナンバーカードの普及が細かいことがたくさん生じ、スムースに進行していない。これはポイントを少しつけるとか、各省庁の利便性を増すとかの小手先ですむ問題ではない。日本に住む人々にとって、普遍的で、全体的なインタレストがかかわらなければその普及は無理であろう。

 このことについては私の経験からお話ししよう。すでに30年も前に、留学したアメリカで私にも社会保障番号が与えられた。それはアメリカにおける総背番号制度である。あの統制嫌いと言われていたアメリカでなぜこんなに現実に普及したかをしらべると、1936年ごろ、大恐慌,ニューデイールのなかで、年金を受け取るためのカードとしてつくられたという。新たな年金制度に伴うカードは、まさに大衆的賛同と支持を受けて普及したのである。

 このことは多くのことを教えてくれる。つまり小手先でなく、時代の問題の解決にかかわることとかかわらせることである。このことについては私は、ベイシックインカムと関わらせることを提案したい。今全般化している正規と非正規の格差,分断、ジェンダー差別、若手研究者の生活困難、などなどの解決には、それらを超える制度として、ベイシックインカムに折に触れて言及してきた(雨宮『協同主義とポスト戦後システム』2018年,有志舎、228ページ。同「ポスト戦後システムと再コモン化、コモン化」『獨協大学地域総合研究所紀要』2023年、56ページなど)。

 このような社会の当面している歴史的課題の解決の実現の方法として提起されれば、アメリカの社会保障番号と同様に全般的に普及するものと思われる。

 

2023年6月の俳句

その一

関東の空を背負える萱新樹

さえずりの仕切る緑の四角形

なんまんだの呼応鋭し夏の通夜

はるじおんの翳にも小さき慰霊の碑

水に映るピアノの音の深緑

味噌汁の豆腐を切る大五月晴れ

その二

すみれをば道しるべとして行く異界

ヘンウエイ越えホームラン彼岸の日

夏落葉他の若葉を若葉とし

なぜなのか一目おかれる蠅虎

はなあふち静かに揺れる三代の家

蠅の闇蠅虎の闇家守

その四

瞠目といふ一会あり縄文の夏

木下闇河馬のあくびの滑り台

海と船市場とろ箱夏鰹

マスクして己取り戻すをとこたち

つまりは生きているんだ更衣

更衣半世紀前の教え子と会ふ

柿若葉さらだ菜よりもさらだ色

その五

不要不急のことにあまねく春の月

今日のこと今日のことにて糞転がし

どくだみの花の煌めく午後七時

をとこ二人語り合ってゐる夏夕焼け

公園を斜めに過る夏の婆

縄文の土鈴さやさや夏木立

以上