その一
苦瓜の小さき花に小さき蝶
噴水や故国異なる人ばかり
良き人生とのこされし者等言ふ仏法僧
極暑という季節を変へぬ野分かな
除菌ロボットに追はれる夏の爺と婆
銀ヤンマ反射して夏の闇
その二
噴水や忙しい人暇な人
アメリカの鯖雲に入るホームラン
星流るたまわりし本数多
胃袋にかすかな胃酸稲光
雲の峰皆世に出でて家滅ぶ
道のえの黒きかたまり大暑かな
空蝉の一片栞に歎異抄
見るものの奥を見てゐる青葉梟
鳩三羽結界を越へ雲の峰
その三
とがったものほど長いつきあい夏
ひたすらに妻と歩きし異国の夏
つゆ草の咲くやこの時この所
竜淵に潜む飛び出すもの飛び出さぬもの
目耳不如意日々鮮たなり雲の峰
秋風の声やや遠く日々鮮らた
暇な人忙しい人時計草
集中脱皮脱力碧あげは
その四
かなかなで明けていく高原
特急にどっと乗り込む大暑かな
ごきぶりも縞蚊も休む大西日
散らばっているおもちゃ大暑かな
午後一時新宿を行く大暑かな
六尺のくちなは過る処暑始まる
肺がんがカメラを貌く大暑かな
その五
かはかはと烏嘴空け大暑来る
かはかはと烏並走雲の峰
行き場所がなくなるをとこ大暑かな
夕焼けの丘を見ている縄文人
近世なき甲府の館大夕焼け
六日の九日の黙祷大豆干す
こぼれ種淡く小さく靭き朝顔
気がつけば虫の音のなか朝の秋