その一
父と子の短い会話稲の花
むらさきの露草一輪芝離宮
長月のリトルトーキョーを歩いてゐる
金木犀かの世の雨に濡れゐたり
汽水線越えて釣られる鱸かな
撮りためて重きスマホや秋の雲
高声のおさなの一塊秋高し
その二
自分変えず地球を壊したホモサピエンス
夏の闇影なき子らに影あたへ
ごきぶりのゆずれぬ一線闇あはい
子の汗を抱いて冷ます残暑かな
蟻の歩にあわせて蟻になりにけり
山梨の記事に包まれ来る白桃
暑い道過るくちなわ六尺余
いなっこが鯔になりゆく戦き
鯔やがてとどになりゆく不穏かな
これはもう人を殺める暑さかな
秋袷無言抱きてすれちがう
その三
紅色ひしゃげるはじまる紅葉
蓮の花赤の虚しさ白の虚しさ
蓮の花見る西を見る植物園
曼殊沙華街の雑踏透き通り
夏中の二酸化炭素吐き出す日
梅を干すたゆたゆと皺ゆるびゆく
ビール飲む無駄な知恵分ビール飲む
その四
金木犀あまえられてもまあいいか
大絮のごときかたまり街の雪
きっぱりと黒の上下の夏衣
饒舌の左官職人腕もよし
心地よきことしてしまったわ曼殊沙華
威嚇無き治者の住まいやつわの花
きりきりと女庭師や新松子
鯛釣りし汽水の池や芝離宮
添ふごとき巌の石組み空高し
その五
舟虫の動きゆっくりゆれる桟橋
側女つれ将軍おりる波静か
色のつく前の千両真珠色
いにしえの波音聞こゆビル群秋
お父さんと呼ばるる猫や街涼し
温暖のこの星縄文のごとくに
流れ星もともとなかりし野望
民衆も人殺めたり震災忌
人殺める事無き三月十一日
黒葡萄ふふめば甲斐の山の気
巨き峰確かに巨峰黒葡萄
もろともの便乗あれこれ野分の夜
塹壕の中に墜ち来る赤蜻蛉
補聴器のノイズの中の秋の声