その一
雲の峰背負いて都市の変電所
聡明を超える明るさあまりりす
朗らかな上臈蜘蛛の網に入り
素寒貧素寒貧と亀が鳴く
猫暑しいもむし暑し人暑し
炎暑なり歩道橋の理不尽さ
変電所の中の瀟洒な夏館
その二
小雀を飲み込む鴉雨しきり
小雀を飲み込む鴉にからすの子
プーチンと鴉は違う避けられる戦
避けられる戦避ける方法梅雨の明け
跳ねた鯔かもめとなりて大空へ
鯔飛んでカヌーに入りぬ汽水線
歯を削る土木工事や迎え梅雨
おおくしゃみ何も変わらずゼラニウム
風鈴に触ってみれば素寒貧
その三
素洗いの皿のひびきや夏の風
花きぶし出会いと噓の花言葉
薄味の色それでいいいろ花紫陽花
夏小潮満つる川岸六十年六月十五日も
夏燕やわらかく裂く新宿の空
その四
卵生む烏賊の目険し春の海
孤児に親兵士に妻子ちゅうりっぷ
仙人掌(さぼてん)の花枝幹根と共に生き
自家の壊れっぷり鑑賞する人野分あと
おべっかでなしオマージュだとお世辞言ふ夏
叫喚は幼稚園よりキーフ夏
炎暑やりすごす夏眠中なりじじと猫
大花火開くや闇の改まる
以上。