その一
書初めやひきこもりの叔父手本書く
殺人は許さない読み初めは露伴
塩鮭の塩にまみれる無表情
水落ちて昇る水あり大氷柱
つくらずならず窮鼠開戦日
三十五人殺して妻救う美談ハリウッド冬
キラキラと新樹の古墳バギャナなり
多詠少捨少詠多捨冬ざるる
その二
ラフランス追熟完熟手榴弾
明ける空みつめる幼なメリークリスマス
声届き声返る朝風邪治る
頭でっかちだが体もでかいうるめいわし
義務のごとなめるごと食べる人たち肉丼屋冬
時計紛失時のない十二月
幼丸出しのキャンデイーズファンベルエポック
その三
湖の芯抜くごとわかさぎを釣る
真白な山茶花散らず施設の庭
落葉の大木琳と霜と月
マフラーの星条旗に冬の蠅
想い出は想い出している現在十二月
やはらかく一網打尽ファイブジー
赤い黙白い黙冬の黙
無音といふ色住宅街冬
その四
冬薔薇見る人を見る人を見る
かたずかぬことはかたずく大根引き
塾育ちが塾教師大学一年生
ビル内のカフェの形の冬の夜
その五
どうしてもルフランス欲しい午前三時
まぐあいも死も生の絶頂八ヶ岳
やはらかくねむる連山甲斐に入る
渋谷交差点見る人々を見る冬の昼
冬来るごとく赤富士現る住宅街
蛇殺す子等に母なぜといふ
暑いとき暑い寒い時寒い去年今年
目が顔の半分以上の鯖をつる