その一 東北路稔り田なべて方形に
海の香の肉汁弾けカキフライ
帰り来て街に名月灯の一つ
桐一葉結構器用に生きている
歩く影皆透き通る盆の月
演奏やみ音のみ残る星月夜
その二
落葉踏みきのこの見える目となりぬ
街中の闇の中なる虫時雨
鹿の目にやはらかく会う路の角
雨戸より空を搔きつつ家守落つ
マスクして同じ頭形の父子かな
日曜日三鷹の駅の黒揚羽
ピーマンの種ごと炒め秋惜しむ
大欅何も持たずに鳥あつまる
その三
ボストンの楓紅葉透き通り切り
この戦後戦前とせず烏賊を干す
名前負けしているをとこ秋闌ける
蛇恐れ町場の少年ボス降りる
マンネリを真情込めて説く瑞穂秋
兵逃亡お天道様が許す天高し
鰯雲肉屋の屋号溶けていく
側に胡瓜垂直に飛ぶ猫の秋
その四
顔寄せて来る馬無言朝の秋
去る者は追わず来る者は拒み猫帰る
医療費の負担二倍蚯蚓鳴く
原稿に秋の風入れ完成す
利根川に近江からきたはすを釣る
思い込み微塵になりても思い込み秋
いい爺婆はみんなのもの秋高し
枯蔓の零余子の肉塊充実す
その五
犬去って海音残る晩夏光
街に咲く曼殊沙華の瘦せ加減
ただならぬ秋の風この地発祥の森
苦瓜の小さな花に小さな蝶
垂乳根の銀杏黄葉三千年
ヤンキースの帽子ばかりの中央線秋
兜太も好き龍太も大好き鰯雲
人消えてこの星残る核戦後
その六
ホテルはリバーサイド彼岸此岸
縄文人の家にもごきぶりそれ以来
太き鯔跳ねて水面に影残し
幼も老も刹那刹那の自然薯
子供三人腕太くなる母秋澄て
子等なべて親の圏外大銀河
花爛漫母喪ひし日の如く
バギーには老犬ばかり鰯雲
立ち枯れる曼殊沙華こそ曼殊沙華
ニッカポッカの人と鯵を釣る
秋浅し百CCの膀胱量
秋瓶の尿の重さを愛しけり
その七
甲州の葡萄酒醸す移住人
おびただしき光とともに鮎よせる
ガードマン濃きかたかげにガス工事
人の声海に映りて秋澄めり
以上