その一
青い空白もくれんの白い花
葉桜と盛りのあはひ華やぎて
合格す百花繚乱白もくれん
花びらは人を選ぶと四月馬鹿
一木ごと異なる空持つ植木市
海臨む花万朶青春晩期
気立てよきIをんながゐたり桜雨
その二
時計止まる時間無き空間春
白の正気白の悦楽白もくれん
白の狂気白の陶酔白辛夷
基礎疾患まみれは全疾患四月馬鹿
春灯す小庭の土のやはらかく
傘寿人踏み出すいなや花吹雪
裏返る鴉のだみ声四月馬鹿
その三
殻動き次に足出るがうなかな
殻回り肉のせりだす蝸牛
きらきらと蝌蚪食む青大将の真昼
海草(くさ)の香と光に噎せて磯遊び
それぞれのひとを見ている桜かな
僻芽小花深紅野生のちゅうりっぷ
その四
傘寿人またも一会の桜かな
みほとりに母植えし百日草の花の列
シーレ見る人みなしなやかに春明かり
風もなく音もなく飛花深大寺
きむずかしいところへ行かぬ柳絮
真っ直ぐに降るをためらふ雪のあり
その五
春一番空には動く芯のあり
女子言葉なき談笑や風光る
春の子の泣き出す前の間のながし
よくいきている全「雑草」のとりがたし
菫の花にてらされ野道行く
花ごとの小さな欠伸花曇り
白光の溢れる花の影を漕ぐ
花びらの山と谷いくねずみの子
春光を啄む鶺鴒深大寺
断崖に溢れる桜花舟一艘
捕食者に毒蜜蜂に蜜ジギタリス