その一
虎杖の伸び立つ赤芽太平洋
春月かうかう忽ち異界ベッドタウン
沈丁花デモの帰りの一葉坂
気管支がおもいだしてる五月晴れ
夏来たる虻と蜂とを取りに行く
街賑やか血圧計と五月晴れ
その二
うぐいすのさえずり稚さな舟とめる
いす
重患が押す軽患の車椅子緑立つ
夏の波光を分けて来たりけり
ぬいぐるみ同じ瞳をして買われゆく
天網の漏らす小物や吾亦紅
春憂をあつめて堕つる椿かな
その三
さえずりの去りて残りし葉の揺らぎ
エンバーミング足らざる面や走り梅雨
釣り上げしかさごの含羞リリースす
白単衣青橙一筆しゃがの花
花ごとの小さき欠伸花曇り
白光に溢れる花の影を漕ぐ
断崖に溢れる花と舟一つ
カヤックの桜ツアーに花花花
その四
サボテンの不当な太さ植物園
けばけばしい赤こそよけれアブソーブ
正義といふ名前の椿赤と白
SLの湯気を貫く日の光
無人駅あわあわと咲くあけびかな
ベランダに富士撮るをとこ雪月花
その五
桜東風バギーの幼なの吹かれ顔
中国の人と隣に釣るうぐい
どすのきくラップ多摩川夏まつり
川急にうぐいすの声成熟す
くるぶしが話をしているいぬふぐり
新樹光あとは野となれ山となれ
オフライン銀杏新樹の並木道
最初のごみごみ袋の包み紙四月馬鹿
夕牡丹研究人に余生なし
馬車の馬瞳の中の夏の空
シーソーに座っている五月来る
豊満な肢体の忘我八重桜
以上