その一
澄みきれる影水にあり八月の渓
真を避け善美に至り戦争ぞ
えごの花の上なる闇の明るさ
お父さんと呼ばれる猫や夏の街
真剣ななりゆきおにやんまの交
児の髪を揺らして過るおにやんま
その二
怒られるわけわからないジギタリス
夏の漣離婚する船長
別れても別れなくとも傘寿の夏
カンデンスキーのほかに知己なし夏の展
終点の駅の小さな蝉時雨
夕薄暑申年AB型水瓶座
改札口音楽で示す国戦争はせず
泰山木の花と目があふ歩道橋
一滴の速さ点滴梅雨明ける
竹の皮外れる二秒無風なり
その三
療養室のレットイッツビー水中花
ほうたるに意味などはなしあいらぶゆう
茨の道茨の花はやさしい
擬死をするかめむしのイメージする死の形
動くことは死擬死は生黄金虫
夏の木の根っこ波打つアスファルト
やはらかくはりつめた脚ダイビング
大振りの小芝居モスクワの夏