その一
関東の空を背負える萱新樹
さえずりの仕切る緑の四角形
なんまんだの呼応鋭し夏の通夜
はるじおんの翳にも小さき慰霊の碑
水に映るピアノの音の深緑
味噌汁の豆腐を切る大五月晴れ
その二
すみれをば道しるべとして行く異界
ヘンウエイ越えホームラン彼岸の日
夏落葉他の若葉を若葉とし
なぜなのか一目おかれる蠅虎
はなあふち静かに揺れる三代の家
蠅の闇蠅虎の闇家守
その四
瞠目といふ一会あり縄文の夏
木下闇河馬のあくびの滑り台
海と船市場とろ箱夏鰹
マスクして己取り戻すをとこたち
つまりは生きているんだ更衣
更衣半世紀前の教え子と会ふ
柿若葉さらだ菜よりもさらだ色
その五
不要不急のことにあまねく春の月
今日のこと今日のことにて糞転がし
どくだみの花の煌めく午後七時
をとこ二人語り合ってゐる夏夕焼け
公園を斜めに過る夏の婆
縄文の土鈴さやさや夏木立
以上