雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

2023年12月の俳句

その一

満天星「どうだん」の朱色透き切る十二月

冬の川孤独と異なる鷺一羽

三人の黙の真中の雪蛍

冬期講習同一の闇もちかえり

それぞれのひかりのなかの七五三

七五三とにかく育つてありがとう

七五三育ってくれてありがとう

兎追ひ熊の足跡逃げ帰る

故郷とは乗ってしまった電車冬

一花なくやはらかきひかり冬座敷

みみうちはただ難聴のため雪だるま

左右前後上下見つつ逃げるごきぶり氏

その二

いさかいやゆっくり弾けるほうせんか

佳き会話セロリのすじの歯にはさまる

論文通らず銀杏降る銀杏降る

毛糸編む人を見ている外は雪

風花は吹き上げられし雪といふ母

鳥わたる中国の院生職に就く

学びの師とはなすしあわせ銀杏降る

冬晴や友人ならわかれようと別れた日

甲斐の国枯野はいつも日にあたり

その三

時間は医者といつもいふ母冬昴

いしざかを登れば大き屋敷跡冬

師のこぼれそっと拭く教え子冬

天国はかくや治療モルヒネ

等身を等身大で越えられるか冬銀河

卑小とは大きなもの見ずやりすごす冬

甲斐信濃塩尻競歩冬銀河

廃駅の幸福駅きっぷ売れる冬

歩道のまんなかにいるまくなぎ

霜月や古書の表紙のあたたかさ

その四

影じゃらす猫じゃらし猫三回忌

商店街過るやかの世の冬椿

抱かれ下手抱かれ上手の冬の猫

人畜無害と嘯く老人龍の玉

直角にひかり差し込む冬座敷

全聴衆号泣初演新世界ニューヨーク冬

老化といふ面白さ近松

衰えといふ豊かさ青木の実

失うことの意味わかる豊かさ山眠る

その五

能一曲こころよき黙冬の宴

俳句詠む晩節楽しくけがしおり

われもこうすすきかるかや我故郷

健やかな赤血球色吾亦紅

寒雀うまれちゃったからいきてゐる

昨日まで農村過剰人口と皆いえり冬

歩き出す車いすの人薔薇園冬

縄文の冬の火温し土器一片

十一月の茄子の花硬い実となりぬ

教え子といふ古希の人など日脚伸ぶ

新院生踏み出す研究室の赤絨毯

窮鼠つくらずならず開戦日

駅地下のカフェの形の冬の夜

殺人は許さない読み初めは露伴