その一
全身に日のしみわたり大旦
春の野に重箱持たせ子を放つ
朱の闇をぬけ初参り鳥居路
石蕗の花庭師の所作の美しく
鴨のあと水脈のVの字どこまでも
極月の残照赤いカヤック
人消えてひたすら深紅冬薔薇
冬夕焼メタセコイアの丈高し
天国は一瞬一瞬ベリージャム
その二
凩の奥にあるちゃんちゃんこ
噴水のしぶき深紅の冬薔薇
時雨るるや無音となりし商店街
一時雨明るくなりぬ暮れの街
汽水線鯔とびやまぬ夕時雨
武蔵野の音一斉に止む初時雨
だんだんと心が空に時雨道
その三
鎌倉の市役所前の石蕗の花
しばらくの会話のとぎれ石蕗明かり
ひたすらに散る山茶花のはなざかり
有能なヘルパーなりき石蕗は黄に
鎌倉の長谷に急げば石蕗は黄に
鎌倉の下校の路の石蕗の花
行列し梅挟み鯵石蕗日和
鎌倉路こんなやはらか石蕗の花
冬夕焼真っ赤に燃える送電線
電話繫し友の躁鬱石蕗明かり
大旦となりの猫の一瞥す
横丁の奥に日のさす大旦
甲斐連山碧くっきりと初日影
以上。