雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

11月の俳句

その一

敵味方戦死盛りの春の若者

街騒は無言の四叉路渋谷秋

街騒をバラードときく秋の暮

一つの買い物で帰る天高し

天高しコップ一杯富士湧水

よくみれば吾亦紅は赤酸っぱい

紅深し自足している吾亦紅

何もかも墨色にする街の霧

それぞれに霧を背負いて交叉点

舞茸も見つけた人も生き生きと

猫入り樽叩きならぬがやりたき秋

ダサいのでエモい平成秋衣

その二

雑踏に柚子の香りとすれ違い

大木の柚子もぎくれる本家の妻

釣瓶落とし干されたままのランニング

ゼミナール釣瓶落としのそのあとも

学生の疎らにつるべ落としの日

モスクワ通り釣瓶落としのまっすぐに

風一陣残して釣瓶落としかな

新宿のビルごと釣瓶落としかな

甲斐連山釣瓶落としをよそおいに

その三

踏まなくは煙を吐かず煙茸

下校時の少年不機嫌柿の天

なかみなく長い報告柿日和

我が生家柿の幹と実衰えず

朝の日にルビーの透明吊し柿

霜降てとみに透明柿簾

それぞれの柿揉みしだき柿簾

柿簾近付いて見る昔見ゆ

吟行や懸命に詠む柿は落つ

無き才能使い尽くして柿うまし

その五

明治節憲法公布文化の日

明治の日とさせず続ける文化の日

木犀の香りをスマホに転写する

転写した画面に香る木犀の花

モナリザてふ薔薇の妖艶モナリザ

薔薇の花数えてメモする管理びと

でかすぎるサボテン多すぎる撮影びと

大あくびして薔薇を見る人見ない人

バギーの幼な足を縮める薔薇を見る

ひたすらに噴水の根見ている二十五歳

芝生に寝新聞みる人高い空

杉大木少し黄ばみて光放つ

栗と芋あけび山梨の秋送

り来る

その六

「おとうさんどこ」夫呼ぶ媼病棟秋灯

きっちこち時計の音のみ病棟立冬

午前二時低き屁の音病棟立冬

午前4時ペースメーカーの響き病棟立冬

八十七歳に手術より天寿をと医師秋深し

百日紅の黒き実弾け鰯雲                                  箒雲掃く空深く深く青

検査入院無事に終わりぬ天高し

自転車で帰る次男に良夜かな

以上