雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

悲惨な市街戦と「傀儡政権」ーロシアのウクライナ侵攻によせて

 ロシアのウクライナの全面支配をするための侵攻がおこなわれている。漏れてくる映像でしか判断できないが、ウクライナの銀行への現金引き出しの行列、身一つの地下鉄駅に避難、などを見ると、ウクライナの市街戦での戦闘体制、必然的に住民を巻き込む大都市の戦闘における住民の長期的で持続的な避難や配給の体制ができていないようにおもわれる。もしこのままで戦闘が始まると、実際、ウクライナ側が反撃するであろうからはじまると、本当に悲惨な事態が現出すると予想される。

 この時、思い出したのは、第二次世界大戦において、戦闘準備ができていない、フランスにナチスドイツが電撃侵攻し、ほとんど戦闘なしにパリが占領され、抵抗のリーダーたちは亡命し、ロンドンに亡命政権をつくり、国内では「傀儡」といわれたヴィシー政府がつくられた(最近の研究では必ずしも一方的な傀儡ではなかったことがいわれている)。そして国内では戦時中も通常の戦闘はすくなく、レジスタンスの抵抗が行われ、数年のうちにナチスドイツが崩壊し、間髪を入れずドゴールなどの「亡命政権」が動き、フランスを「戦勝国」にして「五大国」として戦後に至っていることである。

 都市における戦争は逃げる空間が少ないこともあって、大変に悲惨な流血も含むJ事態を生じる。したがって、たとえば現在の抵抗している政治リーダーたちは亡命し、国際的に活動し、国内では「無抵抗」であるが占領者に必ずしも全面的に従属しない芯を秘めた、それゆえ「裏切者」などといわれてもめげず「傀儡政権」をつくり、住民の生命と生活をまもること。住民は非暴力の抵抗と非協力をおこない、占領国本国、および国際的な反占領の動きの中で、やがて「解放」され「亡命政権」を中心に再建が始められる、というシナリオも考えられる。

 ロシアは冷戦期の最盛期の復活の夢を、アメリカは「白人天国」の復活の夢を抱き、それぞれ没落を自覚した動きが、半数に近い国民の意識にあり、それがプーチンとトランプの基盤にある。したがって、プーチンはもとより、アメリカも問題を解決する力はないとおもわれる。こうした没落しつつそれに抵抗する覇権国家ではなく、覇権国家を卒業して、戦争をしない、できない憲法体制をもつ日本などが、リアルに柔軟に原則的に動いて当面の悲惨な状況を回避し、中長期的には、新しい相対的に非覇権的な国際秩序を創るイニシアチブを持つことは可能であり、客観的に期待されていると思われる。