雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

戦後憲法学の群像と戦後体制の形成・展開・動揺・ポスト戦後体制

 編者の鈴木敦、出口雄一さんから『「戦後憲法学」の群像』2021年、弘文堂、をいただいた。戦後の憲法学を、それぞれを戦後第一世代から第五世代として、啓蒙の憲法学、抵抗の憲法学、制度の憲法学、その後の「護憲」などにニュ₋トラルな憲法学、と区分する。次にその担い手として東大,京大のほかに他の公立大学,私学の憲法研究者の理論活動を丁寧に明らかにする。さらに日本国憲法の舞台の「主戦場」たる「平和主義」「九条」をめぐる学知のコンステレーションと推移が明らかにされる。

 以上を通して本書のフレーズの「「憲法学者」とは何だったか,これから何であり得るか」をかんがえるための憲法学の学知の多様制を歴史的に多角的に明らかにすることに成功している。

 そこで「それから何であり得るか」をさらに明らかにするために、本文献の課題を成功させた法制史という法学と、政治学歴史学との関連で考えてみよう。まず、上記の啓蒙から抵抗への契機として、日本国民の日本国憲法の選び直しの意思を示した1955年の総選挙、その結果による自民党改憲意図の挫折、共産党六全協による暴力による変革の否定、で、憲法秩序への参入、および改憲阻止でまとまった社会党統一の三っつにより構成される55年政治体制と日本国憲法体制の同時成立があったことが明らかにされている(同書4頁、33頁、なお拙著『戦時戦後体制論』127頁)。つまり戦後体制の形成と憲法学の学知のありかたが明らかににされたのである。

 さらに制度論的学知から次の段階への移行は、戦後を持続させているもっとも有力な力は、国際体制における戦勝国システムであり、それを前提とする冷戦体制の終わりと関連しているとされる(同所44頁、なお拙著『占領と改革』ⅲ頁)。つまりポスト戦後体制への移行である。以上から見えることは、「これから何であり得るか」を解明するために、ポスト戦後体制ーシステムの政治学歴史学などによる究明と、法学による憲法学の学知の究明とのリンケージが重要であることがわかる。なお個人的には、共産党六全協による憲法秩序への参入と自民党改憲意図の55年における挫折による憲法秩序への参入を55年体制憲法体制、ひいては戦後体制形成の不可欠の契機とした私の議論および国際体制の動揺によるポスト戦後体制への移行とした私の議論が位置ずけられているのは印象的であった。なお私は自由主義と協同主義の関連を軸にしてポスト戦後体制―システムを考えて居るがそれと憲法の学知を関連させてみたいとおもっている。