雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

ポスト「住宅都市」と「伝統社会]

  本年3月に出版された「和泉市の歴史」第8巻『和泉市の近現代』を先月和泉市からいただいた。執筆者などの広川禎秀佐賀朝、塚田孝、高岡裕之さんは、、学会などで交流して来た人たちである。

 500頁にわたる大著である。和泉市域が農業社会から工業化が開発事業としてなされ、やがて大阪市近郊の「住宅都市」として現代にいたる過程を、江戸時代以来持続する「伝統的社会」との関連、すなわち高度成長期以後の再開発事業などで、それが「最終的に」「解体」し、「都市社会」が完成する過程を詳細に叙述している、特色がある、かつ説得力のある内容である。

 その上で、その到達点とその後について、コメントをする。私が住んでいる小金井市、審議会の委員をしている日野市などを見るといずれも時期的内容的にずれがあるが、近代初期からの農業社会、それに工業化が加わった、農業と工業の地域、次に工業と住宅の地域、やがて住宅都市、となってきている。

 そして現在、そのベッドタウンが転換期にある。すなわち少子高齢化、産業構造の変化、グローバル化などによって、職と住、育、介護、楽、などとの分離、特に職と住の分離というシステムが作動しなくなっている。わかりやすく言えば中心都市に通勤して、眠る都市に税金を払う、ということが上記の要因で、その通勤者がベッドタウン都市の福祉の対象になる、ことなどである。

 その問題をどうするか、つまりポストベッドタウシステムをどうするかがせまられている。それは端的にいえば、職、住、育、楽、介護、などの、特に職と住の再接合、再統合である。つまり職と住などが分離する前に戻る、しかも分離以降の豊かな蓄積をふまえた戻り、でありそれゆえ、再接合、再統合である。その意味で「伝統的社会」が解体して「都市社会」になるとの線型的把握と同時に、[解体」でなくバージョンアップした再生ーバージョンアップした循環過程として把握することも必要であろう。たくさんのことを考える材料を与えてくれる文献である。(なおポストベッドタウシステムについては、私の最近の二つの単著、および近く出版する単著でふれている)