雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

2023年3月の俳句

その一

鮎並の獣めく引き穴釣り二月

北浦に釣りしたなごの銀貨ほど

鮃の縁側黒霧島の湯割り

行く春や烏の口の半開き

グレン・グールドのバッハ春の潮

黙食の貼り紙椋鳥やかまし

その二

旬の詐欺中銭持ちの高齢社会

売り切れてピーナツを撒く鬼やらい

春の雪見え見え見えのみえかくし

煩悩をつぎつぎ卸し春の坂

煩悩をおろした果ての春の坂

問わるる人のことば美し鎌倉の春

きさらぎのひかりのなかにかぜうまれ

黄の点点点山茱萸の蕾

梅は二分咲きに限るといふをんな

まんさくのはなゆれるもあらもあら

水の音晴天の色いぬふぐり

いぬふぐり猫のふぐりを見送れり

その三

春の蝶放ち放心大庇

春月や縄文土器のある畑

最後の段外しこらえて春の土

浮かれ猫おつかれでしょうご飯をどうぞ

ギター弾く爆撃音を払いつつ

級友の肺を患ふ母に芹

一秒を三秒かけて春の雪

中吉と身に余ること初神

その四

春の闇兄の遺せし裸婦の像

犬小屋に干からびている春の闇

消しゴムでまた消している春の闇

看護師の手のあたたかし春一番

春一番療養室みなスニーカー

春一番長距離ミサイル売りに出る

三片は舞い上がりたる牡丹雪

年男天動説を言ってみろ

昭和には会社句会があった春

はからずも検索記事が読み初め

その五

葉の密集こそが命の吉祥天

冬空に向かって伸びる藤の蔓

裸木の枝の実在枝垂桜

植物園薔薇の全滅潔し二月

更地前すでにあやふや初御空

じいさんの誕生会はオンライン

蛸食ふて天動説を説くをとこ

集落に全世代ありしどんど焼き

初釣りのカヤック転倒起き上がる

講義準備間に合はぬ夢春立ちぬ

戦前の最後に生まれまた戦前春

じぶんのことのみのをとこに春の風

よっぱらいばかりになったので春の歌

鰯襲ふいるかを襲ふ鯱の群