その一
大寒の大楠の幹あたたかく
金色に透くカーテンのごと蠟梅
落とし湯のきゆふとないて寒に入り
加湿器の忘れたころに泡を出し
いきなりのかの日の懺悔梅香る
東京湾のセイウチのためいき
その二
初釣りや太平洋に浮き一つ
武蔵野を縦に分け行く夕時雨
波止の波音白し初時雨
凩にバケツ飛ぶ音みな同じ
玉子酒天動説を説くをとこ
富士駅にあられもなき冬の富士
連山にいだかれている甲斐の冬富士
二室に灯りあるビル三が日
その三
去年今年水は曲がって流れ行く
街にある村の社に初参り
乗客はその鉄道の人ばかり冬ざるる
幾何学的声に満ちたり電車冬
縄文の時は温暖一万三千年
わがはいのがん細胞も寒に入り
パイソンを食むライオンの息白し
食われてる小象の腹の湯気はげし
序の口の行司の裸足春隣り
枯野行きバス最終便に乗り遅れ
着ぶくれて枯野の前を右左
枯れるとはかくも脱色冬薔薇
イヤフォンを外す二月はじまる
ぎしぎしと羽を軋ませ行く白鳥