雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

西洋思想と法制に還元できるか、還元できない「固有性」を実体化しないで人類史の中に位置ずける。

 12月25日に行われた戦時法研究会のもう一つの報告は森本拓さんの「上杉国家論の法思想的意義の検討」であった。報告はイエリネック以後の上杉慎吉の依拠する思想を緻密に追求し、最後の方では、日本思想史において、個人と国家の関係に着目して整理すると、個人の自立を基本とするロック、カントにつらなる自由主義的国家観と国家への統合を基本とするルソー、ヘーゲルの国家観に分けられる。そして天皇機関説問題における美濃部達吉は前者の系譜に、上杉は後者の系譜に、属する。そして状況が自由主義的な時には前者、総力戦などの時代には後者が支配的になるとする。

 以上の説明はこれまでの機関説問題の美濃部―西洋法制、上杉ー日本的国体という構図を、両者を近代西洋法制、西洋思想で説明したものである。そのことを評価したうえで、はたして全てを近代西洋法制、西洋思想に還元、解消して済むだろうか。その解消できない要素を、その「固有性」「本質」として実体化しないで、解明する必要があると思われる。それは既存の「西洋思想」「東洋思想」をふまえつつ、それに解消できない現象を、人類史の一環として解明することであり、それを通して、西洋、東洋の歴史はもちろん人類史の新たな方法を拡大していくことであろう。かくして、「神秘化」「実体化」されてきたその要素が認識できよう。そして認識が可能になることは、そのコントロールの可能性につながるだろう。