封鎖飢餓ショスタコーヴィチ第七番
自転車屋が自転車を売る赤蜻蛉
清潔な持続の快感合歓の花
こまつたなあ茄子のうらなり
野葡萄を食むや紫紺の酸弾け
ベランダ菜園無常とはかく豊か
秋深し地球の海で鯵を釣る
秋の風ちがふ東京になっている
柿実るなど普通のはなしベルリンと
研究棟闇のやさしき帰り道
観念を着こなす講師鰯雲
ホームラン空の深さをつかみつつ
別個に校歌を聞き泣き卒業す
鬱屈に赤き透明ゆすらうめ
生き残り恥ず句見て好戦主義者恥をしれと兜太
ベランダ農東京で歳をとる
曼殊沙華翳なき人とすれちがふ
曼殊沙華I糸くず残して茎三本
秋蝶のあちらとこちらあはひ舞ふ
年ごとに来ては帰る帰り花
鬱といふ文字の輝く曼殊沙華
皮バンドの音微かに混じりホームラン
梨狩りの一個の巨大祖父に来る
なぜだろう妖気の抜けた曼殊沙華
初校終へひたすらに天高し
以上。