その一
咲かぬものは咲かさず夏の植物園
植物園窓全開の野分前
肉厚き蓮の蕾に覚悟あり
蝉時雨浴びて夏の人となり
葉と茎に埋もれて疎ら夏の薔薇
葉と茎にほどよく疎ら夏の薔薇
左右大小非対称ベゴニアの片想い
カンチクハチクトウチク夏の竹
炎天や少し小降りの蝉時雨
百日紅の下テレワークする女
しおれるものしおれるままに植物園夏
恋恋恋ひたすら揺れるおみなえし
その二
いやだけどいいベタな夏芝居
爺さんの含羞婆らの色めき秋
すっからかんすっからかんと法師蝉
ごきぶりと目が会ひ共に動かず
若蟷螂眼逸らして雲を見る
家族とは不幸のためにコロナ夏
懺悔のごと皆うなだれる昼の向日葵
秋の湖自転車の視線一周す
水田てふ海に松原鳥海山
その三
八月や同じ日ずけの墓ばかり
炎天の街に火をつけ紅日傘
水道からゆるく熱湯アロハシャツ
歩道橋灼けるを渡る蹲る
土用明け富士に十里の街に住み
錆鮎の落ち往くさきは広い海
新しさ継いで草創秋たける
それぞれがそれぞれに咲く秋麗ら
その四
留置所の小さき窓の磨りガラス朱夏
越後屋の顔に似ている桃の種
鬱屈と草木瓜の実を持ってくるをとこ
オンライン出ておっさんにもどりけり
さあ散歩手足の段取りアマリリス
ホテルはリバーサイド此岸彼岸
垂乳根の銀杏黄葉三千年
江ノ島白秋各段階の二人たち
洗い場に蟻が一匹除かず
以上