その一
敬老の人全戸に敬老の日
門下生かなり年上秋麗ら
猫じゃらしの空き地猫背の人が行く
大昼寝かの世この世のそのあはい
寝る前の我は誰ぞ昼寝覚め
梅雨明けの風をほぐして柳かな
花合歓やゆかしきゆえの多情多恨
その二
炎天の芯の黒さや深大寺
建長寺蝉の声やみ巨樹残る
夏燕燕返しを切りかへし
ボストンの生牡蠣テーブルは夜明けまで
水音に揺るる鬼百合闇匂ふ
ももんがの子供見る子の手素直なる
ももんがの子供見る子の手空を撫で
釣りし鮎光まみれの線引きて
その三
饒舌は孤独のかたち山法師
真昼間に涼しさ纏い友の来る
葱胡瓜買うものすべて自分量
万緑や父喪いし日のごとく
大雨山火事頻りのたうつこの星の人
じっじっじ追う鳥躱す蝉の声
子等なぜか集う石段夏の風
祇園会へ坊さん走る猫走る
柿の花用はないけど話しかけ
その四
謀議のごと小声で話す大暑かな
苦瓜の花枝幹根と夏を生き
炎天に緋の艶深め夾竹桃
複雑でいい顔メロンつくりの丹後の人
白き花赤く染めいく葉月闇
灼熱を葉肉に吸いて日照り草
秋茄子も赤ん坊も大笑い
運命を革むることのきしのぶ
バンパーに映り留まる秋の風
その五
ガードマンに片影も無しガス工事
空襲も疎開も過去のことならず
まくなぎを払わず群れに従はず
大あくびしてあたまからっぽ無敵夏
山賊の頭のごと睨む蠅虎
踏切があかぬ間に皆老ふ夏
一秒後に廃墟となりぬ団欒夏
静観拱手傍観秋になり
目耳他不如意なりゆくことをかし
螺子花の螺旋を風がつたひいく
以上