雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

戦後を戦後以外で語ること、四潮流論、協同主義と自由主義

5月4日占領・戦後史研究会で濵砂孝弘さんの報告「岸信介の二大政党論と安保改定」を聞いた。趣旨は岸は50年前後には、経済安定自立を主に考え、労使協調、経済の計画化など、修正資本主義と福祉国家を考え、英国型の反共の労働党と保守党の二大政党制を構想していた。しかし安保改定をめぐって、社会党から民社党がわかれ、二大政党制ではなく、安保をめぐる一と二分の一の分極的な五十五年体制になったことを、厳密な学説整理と新しい資料で実証的に明らかにされた価値ある報告であった。

 その上で、いくつかのコメントをしたい。第一に、報告は戦後を戦後で説明できるのか。修正資本主義、福祉国家、経済の計画化、労使協調などは岸などにおいてはほとんどすべて戦前戦時特に戦時において考えられ実践されたものであり例えば国民皆保険化など戦時に引き継いで戦後岸内閣で実現するのである。第二は上記をめぐるアクター関の関係を、戦時期に原型がつくられた自由主義と協同主義の展開からすれば、岸は下からの協同主義である社会党自民党内の上からの協同主義の勢力と保守勢力の主流の自由主義、の二大政党制を考えていたが、それは挫折して、上記の五十五年体制になった。それはアクター関係でいえば、上からの協同主義である岸などの国防国家派と下からの協同主義である社会党などの社会国民主義派と吉田などの自由主義派の結集を意図していたが、安保改定をめぐって国防国家派,社会国民主義派と自由主義派、反動派の結集としての自民党優位体制になってしまったといえる。

 第三に、それゆえ戦時の展開抜きの戦後はありえないと同時に、他ならぬその戦後体制の一環としての五十五年体制が崩壊し、グローバルの新しい自由主義が展開しそれに対する新しい協同主義が展開している(拙著『時代への向き合い方』)。戦後をポスト戦後、未来で語らなければ現在をかたれないのである。つまり「戦後のゆらぎは、戦後を戦後で説明する時代の終わりを意味し、戦後を戦後以外、例えば戦後以前と戦後以後で説明することを要請している(拙著『占領と改革』193頁)のである。今回の報告は以上のような事を具体的に考えられることも含めてクリエイティブな研究である。