月蝕のむくんだ月と風鈴と
疫の世にそっと風鈴吊るしけり
鏡の奥より響く風鈴午後三時
花忘れ家々うつす目黒川
心音が景色の一部犬の初夏
紫陽花や踏切の音のみの街
声のない声あげて少年初夏
どことなく不機嫌な耳犬卯月
瑠璃戸を少し開けて聞く五月雨を
あきないの風鈴の音のみ深大寺表参道
花あふちむかひの孫の声高し
隣家より昼の風鈴ホームステイ
風鈴や音と風との格闘技
通院路濃い橙の杏の実
ジギタリスはあうつせえうつせえうつせえわ
花の名を持つこの街に時を飼ふ
踏切のすぐに開いて梅雨しげし
梅雨語り洗心佳話に洗われる
通学路に青梅一つ一年生
青嵐スマホあやつる八十婆
アフリカンの腕の太さや快速初夏
老年に老年期の学問あり夏木立
以上。