雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

『戦時期の労働と生活』法政大学大原社会問題研究所の2,3の論文について

出口雄一さんと米山忠寛さんから『戦時期の労働と生活』法政大学出版会、2018年をいただいた。第八章戦時期の生活と「遵法運動」と題する出口さんの論文は国家法秩序と社会規範の分立をめぐる動きの実証的な論文でありその歴史的法学的位置と意味をみごとにあきらかにしている。遵法運動を近代主義者や伝統主義者などがどう意味づけたかなど大変興味深い分析である。そのうえでのことだが、統制経済や法とことなる親戚や恩顧者、知人等の関係による「違反行為」の評価については伝統主義者も近代主義者も否定的であるが、国家、資本から自立して生活をなし、防衛する社会の存在としての新しい評価が必要ではないかと、考える。この点について特に感じたのは、拙著『協同主義とポスト戦後システム』有志舎を上梓したばかりであるかもしれない。

 第九章昭和戦時期日本の国家財政と家計、は米山さんの論文である。国家財政と家計をつなぐものが貯蓄奨励であることに注目してそのメカニズムとして、戦費支出による資金投下、インフレすなわち市場に金があふれ物質不足になる事態を強制ではなく防止するために貯蓄奨励が行われる。そこでは戦争によってゆたかになる国民への、あるいは国民一般への国家の「懇願」のありようも析出される。第十章パーマネント報国と木炭パーマ(飯田未希)もおもしろかった。贅沢などと禁止されたと思われているパーマネントが戦時中返って増加

していること。権力の側は「呼びかけ」程度

だったが「当時の新聞」が「禁止命令」のように提示したとの指摘などである。  

 支配と抵抗、民衆は貧困状態にある、等などの認識枠が支配的であり、戦時に民衆も「上昇」し、権力が民衆に依存し多様に対応する、ことなどを指摘しなければならなかった1970年代80年代(たとえば拙稿「1940年代の社会と政治体制」1988年。後に『戦時戦後体制論』1997年、岩波書店に収録)に比べると昔日の感が深い。上記各論文はそれらを実証的にも構造的にも鋭く豊かに展開されていることに敬意を表したい。