雨宮昭一の個人研究室

政治学と歴史学と地域の研究をしている雨宮昭一の備忘録です

2024年4月の俳句

その一

春一番吹き寄せられる園児たち

啓蟄や怒った猫のやうなひと

給水車からほとばしる春の水

しじみことことことことと囁けり、

春分の列車のさきの山の雪

春鴉五秒みつめて横によけ

不満媚愛の交じれる犬の目三月

顕学に呼び捨てにされる春の会

白髪の隙から高砂初舞台

花粉にせき込むこの星自転

地下鉄を三回のりかへ佐保姫に

咳誘う路地にたまりし花粉他

その二

再建の戦後植林今花粉

ブランドランドセル六万円超梨の花

病数多加齢人に四月かな

つわの花その葉つやつや石の庭

研究会句会へとへと花やつで

ラフランス部屋の空気をゆがませる

ハーバードヤード連翹ひかりけり

三一一武田一族滅亡す

踏切の小さき溝すべて跳ね子犬春

その三

春愁や活気ある休息カンデインスキー

水面行く一朶の雲や春鮒釣り

古倉の奥から湧いてくるひいな

光悦忌育ての父の鷹揚さ

岸壁に鷹色残しちょうげんぼう

緑色残し飛び去る大インコ

今年またおなじところに黄水仙

その四

街一つ斜めに揺らす柳かな

京橋をななめにゆらすやなぎかな

仏の座罅によく咲く家守る

ひまわりは溶け出している午後一時

講義室さっさと出でて春の風

三歩戻つてみる菫かな

サックスの音の中なる落花飛花

朝顔管の中ひらひら落花飛花

修羅しゆしゆしゆ瀬戸の春

紅梅に一日雨の降る日かな

その五

連翹れんぎょう先生今は亡し

消滅す一家一族戦災忌

めつむれば万朶の花としゃれこうべ

蟻地獄にいもむしなげこむ小学生

いもむしとありのしゅらなり蟻地獄

木蓮ゆらして白くなる風

街中の音を吸い取る春の雪

街中の時間吸い取る春の風

あさり顔したあさり研究者

 

 

 

 

2024年3月の俳句

 

 

 この二月は多忙であった。かねてから究明しようとしている自由主義と協同主義の関係をその経済と憲法に関連させた研究ノートをなんとか書き終えた。近いうちにある大学の研究所の紀要に掲載されるが、ここでも紹介するつもりである。

 そのほかに、一つはウクライナ戦争、パレスチナ戦争を一日も早く停戦にすることを考え、私は昨年の研究ノートでも述べたように、その地域に生活している人々の生命と生活を最上位に置く国際秩序を考えている。実際、国家主権、主権国家のために地域の人々が生命と生活、生命も含む犠牲を甘受することは自明ではないのである。また終戦とも関連するが、戦争の原因についても開戦する側が主観的にも客観的にも、あるいは口実でも、自らが相手に害をうけている、つまり窮鼠であることから始まる。それゆえ、窮鼠を国際的にも作らず、またならないことが考えられなければならない。

 もう一つはこの間の政府与党の憲法改正への動き、および昨年12月の殺傷武器の共同ライセンス国への武器輸出の解禁決定、さらに今決定されようとしている第三国への殺傷能力ある武器輸出の解禁の動きである。これは八十年近く保持されてきた、民需中心の経済、武器禁輸、戦争不参加、という体制の大きな変化である。この転換期にどうするかを考えている・

 この戦争の停止と憲法九条やその結果としての武器禁輸、直接の不参戦などとの、関連を私は、両戦争のどちらにも殺傷兵器を送らない日本がそれを背景に、停戦交渉に積極的にかかわり、そしてひいては武器生産輸出入禁止の、さらには地域主権の国際秩序を作る方向性を出すべきと思う。この四月にあるフォーラムでこのことについて報告することになっていてその準備中である。さて俳句である。

 

その一

水仙のうしろの石のあたたかさ

朱の闇を無限にくぐり一の午

卒業といふ一瞬の砂埃

薄氷はすべて割るべし遅刻すべし

この恋の終わりの確信クロッカス

間諜も俳句も万緑はせを仙台

茱萸の実赤の透明愁い果つ

幼老鶸烏路地の日向ぼこ

古文書を日だまりにおき憂し楽し

橋掛かりにしずかにすわる彼の世人春

その二

ばらばらの学生三人波の花

清流の春水汲めば青葉城

身震いす洗濯初めの洗濯機

あけすけに性など話し柳の芽

ふるさとはいまもそのいろ草に霜

その三

水音を最初にたてり春の鯉

大寒の真中に満開梅の花

稿了る血圧上がる春立ちぬ

傘寿春万象万事一期かも

春夕焼け逆上がりできるまで三年生

成長とつまれた牙と終業式

その四

よく見れば音がなくなる春の雨

蓮ほりて水のけだるく映す空

ボストンの居酒屋深更牡蠣三十

啼く鴉巨大なる影春の道

この星をそっとぬけだしねこやなぎ

「年寄りはみたくねえ」同級会不参春

我が本をパンに変え来る宿の友

その五

降る雪や四方八方十六方

帰る跡なき住宅ばかり春の雪

人すれ違うどさっと傘に森の雪

立春の翌日の大牡丹雪

黄水仙さそわれていく名画座

黄水仙ほつほつほつとエデンの東

灰まぶし下を向かせて植える種芋

ひきこもる小年元気枇杷の花

富士の山一山隠す梅一輪

鞦韆を微かにゆらす春の雪

裕次郎の肩ぞろぞろと映画館春

泉湧く南面の丘縄文の春

はじめてのあさはじめてのきさらぎはちじゅっさい

春鴉二秒みつめてよこっとび

 

2024年2月の俳句

その一

冬日満つ一ヘクタールの駐輪車

色褪せて冬菊咲くや底光り

赤ん坊の寝息聞える春障子

前の世の話声する白障子

日払いの仕事帰りのおでんなり

歯が痛いてふ初夢覚めても痛い

20を19と書く前世紀の遺物年賀状

暮れの日の光の強さにたじたじと

声届き声返る朝風邪治る

その二

うしろからふわりと抱く雪女

吾が心やはらかく操る雪女

プラトニックの一線越えず冬銀河

猫の毛の絶望も希望も一毛打尽

ゲームする青年の脚攣る電車冬

日陰迅く陽だまりおそき日の光

踏切をかんからかんと冬の月

健ちゃんの息子です故郷冬の道

コンビニにひとひとひとひと元朝

撒き散らせしDNAにお年玉

その三

一両の電車湖行く初景色

枯野行く人を見ている天体望遠鏡

初御空十重に重なる無人の機

ラインにてお年玉論争決まらず

懐手して頭からっぽ大旦

初参り天狗党墓行軍す

冬の川身じろげる鯉目をそらし

仁王顔のをとこ道掃く初御空

 

 

2024年1月の俳句

 

その一

書初めやひきこもりの叔父手本書く

殺人は許さない読み初めは露伴

塩鮭の塩にまみれる無表情

水落ちて昇る水あり大氷柱

つくらずならず窮鼠開戦日

三十五人殺して妻救う美談ハリウッド冬

キラキラと新樹の古墳バギャナなり

多詠少捨少詠多捨冬ざるる

その二

ラフランス追熟完熟手榴弾

明ける空みつめる幼なメリークリスマス

声届き声返る朝風邪治る

頭でっかちだが体もでかいうるめいわし

義務のごとなめるごと食べる人たち肉丼屋冬

時計紛失時のない十二月

幼丸出しのキャンデイーズファンベルエポック

その三

湖の芯抜くごとわかさぎを釣る

真白な山茶花散らず施設の庭

落葉の大木琳と霜と月

マフラーの星条旗に冬の蠅

想い出は想い出している現在十二月

やはらかく一網打尽ファイブジー

赤い黙白い黙冬の黙

無音といふ色住宅街冬

その四

冬薔薇見る人を見る人を見る

かたずかぬことはかたずく大根引き

塾育ちが塾教師大学一年生

ビル内のカフェの形の冬の夜

その五

どうしてもルフランス欲しい午前三時

まぐあいも死も生の絶頂八ヶ岳

やはらかくねむる連山甲斐に入る

渋谷交差点見る人々を見る冬の昼

冬来るごとく赤富士現る住宅街

蛇殺す子等に母なぜといふ

暑いとき暑い寒い時寒い去年今年

目が顔の半分以上の鯖をつる

 

 

2024年の年賀状

  明けましておめでとうございます。昨年中は大変お世話になりました。本年もよろしくお願い申し上げます。

 昨年はウクライナ戦争に続きガザでも戦争がおきました。一昨年の研究ノートで述べた、その地域に住んでいる人の生活と生命を最上位におき、かんがえる、国際秩序を、つくることをますます痛感するところです。それに関連して、非原発、沖縄の基地引き取り、フードバンク,子供の家,学術会議、などの運動にわずかですが引き続き協力しました。

 研究は協同主義研究会で、自由主義と協同主義との関係およびポスト戦後体制を中心にしたものですが、9月に、自由主義と協同主義の経済制度、システムとしてのウクラードについて報告をしました。またポスト戦後体制については、ほかの研究会でテーマになった「55年体制の歴史的位置」に関連して、国際的には戦勝国体制と冷戦体制を背景に、55年に共産党六全協による、鳩山内閣による改憲失敗による、両者の日本国憲法秩序への参入が、55年体制の歴史的成立であり、今の二つの戦争に関わる戦勝国体制の崩れににも関連する、と思われます。

 安定して研究に専念できるように知り合いの研究者がなったり、小金井市のローカル紙の俳句に全く関係ない編集部に作品年間大賞をいただいたり、俳句誌で、巻頭、特選などでとりあげられるなど、楽しいこともある一年でした。声がでなくなった風邪、ぎっくり腰などでくるしみましたが、幸い快方に向かいました。一緒に研究してくれるみなさん、俳句にかかわるみなさん、生活をケアしてくれるみなさんと家族に感謝しつつ、楽しい一年をおくれればと思うものです。

皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

 殺人は許さない読み初めは露伴

2024年 元旦

雨宮昭一

 

2023年12月の俳句

その一

満天星「どうだん」の朱色透き切る十二月

冬の川孤独と異なる鷺一羽

三人の黙の真中の雪蛍

冬期講習同一の闇もちかえり

それぞれのひかりのなかの七五三

七五三とにかく育つてありがとう

七五三育ってくれてありがとう

兎追ひ熊の足跡逃げ帰る

故郷とは乗ってしまった電車冬

一花なくやはらかきひかり冬座敷

みみうちはただ難聴のため雪だるま

左右前後上下見つつ逃げるごきぶり氏

その二

いさかいやゆっくり弾けるほうせんか

佳き会話セロリのすじの歯にはさまる

論文通らず銀杏降る銀杏降る

毛糸編む人を見ている外は雪

風花は吹き上げられし雪といふ母

鳥わたる中国の院生職に就く

学びの師とはなすしあわせ銀杏降る

冬晴や友人ならわかれようと別れた日

甲斐の国枯野はいつも日にあたり

その三

時間は医者といつもいふ母冬昴

いしざかを登れば大き屋敷跡冬

師のこぼれそっと拭く教え子冬

天国はかくや治療モルヒネ

等身を等身大で越えられるか冬銀河

卑小とは大きなもの見ずやりすごす冬

甲斐信濃塩尻競歩冬銀河

廃駅の幸福駅きっぷ売れる冬

歩道のまんなかにいるまくなぎ

霜月や古書の表紙のあたたかさ

その四

影じゃらす猫じゃらし猫三回忌

商店街過るやかの世の冬椿

抱かれ下手抱かれ上手の冬の猫

人畜無害と嘯く老人龍の玉

直角にひかり差し込む冬座敷

全聴衆号泣初演新世界ニューヨーク冬

老化といふ面白さ近松

衰えといふ豊かさ青木の実

失うことの意味わかる豊かさ山眠る

その五

能一曲こころよき黙冬の宴

俳句詠む晩節楽しくけがしおり

われもこうすすきかるかや我故郷

健やかな赤血球色吾亦紅

寒雀うまれちゃったからいきてゐる

昨日まで農村過剰人口と皆いえり冬

歩き出す車いすの人薔薇園冬

縄文の冬の火温し土器一片

十一月の茄子の花硬い実となりぬ

教え子といふ古希の人など日脚伸ぶ

新院生踏み出す研究室の赤絨毯

窮鼠つくらずならず開戦日

駅地下のカフェの形の冬の夜

殺人は許さない読み初めは露伴

 

 

2023年11月の俳句

その一

ガザキーフ冬ホモサピエンス裸虫

小春日や箱毎暮れゆく観覧車

片頬に大西日立たされし教室

ジンジャーの花戦場のやうな町

迷子になっちゃたといひて泣き出す子供かな

命ふたつ施設の柵のほうせんか

破れ蓮死にざま本来かくのごとし

塹壕の上に毎年の赤トンボ

エレベーター二十六階月に着く

その二

柱から人品みている蠅虎{はえとりぐも}

十月や曲がりくねって秋が来た

秋来り秋惜しむ秋二日

黒葡萄はみ一日をととのへり

レモン水やはり自縛のをとこなり

秋夕焼を着込む街並み海岸通り

ギブアップしたわけではない秋夕焼

下半身暮れて行きけり秋夕焼

さざ波と秋の夕焼け常陸の海

秋夕焼生徒の列の整然と

今生の命萌えたつ秋夕焼

通帳の記帳終われり金木犀

県境を越へるくちなわ六尺余

中世よりの卒塔婆輝くけふの月

その三

芋煮会つぎつぎ抜ける出兵す

父作る肉じゃがほっか広重忌

留置所の窓摺りガラス冬銀河

秋冬の時空交じわる神無月

秋の日や空っぽのままごきぶり家

かにの背に秋の日の濃し潮だまり

幕末の史料のほこり秋日ざし

船虫去り突堤全容秋日射し

がささささ船虫去りぬ秋残る

さざなみや秋の日三千の断片

補聴器のノイズのなかの秋の声

きりきりとおんな庭師や新松子

街灯の周りで虫はなきにけり

いにしえの波音聞こゆビル群秋

構造的犯罪構造的殺人ガザ秋

運のいい人になる本読む電車の人秋

白髪の混じる芸人良夜なり

七五三育ってくれてありがとう

抽象がわからぬ学者冬銀河

以上